ごあいさつ
脳梗塞・脳出血の方のリハビリ・自宅での転倒について
○転倒・転落
<転倒とは?>
定義は様々、
「自分の意志ではなく、地面、床、または他の低い場所につかまったり、横たわること。」(FICSIT)
「いかなる理由があっても、人が地面、床またはより低い面へ予期せず倒れること。」
(転倒予防ネットワーク欧州協力者)
「自らの意志ではなく倒れる。」
*65歳以上の男性の20%、女性の40%が1年間に1回以上転倒経験がある。
*わが国では、転倒により男性で8.7%、女性11.5%で骨折(大腿骨頸部骨折、腰椎圧迫骨折等)を呈している。
<転倒することで起こりえること>
痛み、捻挫・打撲、骨折、頭部外傷、恐怖、信頼を失う、経済的負担の増加等
⇒・訓練が進まず、目標の変更が強いられたることもある。
・自信喪失⇒歩行への不安⇒活動性低下⇒廃用症候群 (転倒後後遺症)
・要介護状態となる原因(65歳以上)の第3位(12.4%)
<転倒の要因・危険因子>
①内的要因
・バイタルサイン(意識障害、血圧、体温、不整脈、呼吸、睡眠不足)
・運動能力(麻痺、バランス、歩行能力、筋力、耐久性)
*Berg Balance Scale(カットオフ値45/56点、37点以下は転倒リスクが高い。他の文献では、高齢者の平均は50~55。45未満の転倒リスクは高い。歩行器使用33.1、屋内杖歩行45.3、屋外杖使用48.3、補助具なし49.6、46以上:病棟内自立、36以上:病棟内見守り)
*Functional Reach(Test)(高齢者で測定値25.4cm以上ならばバランスは良好、25.4~15.3cmでは転倒する率が2倍、15.3cm未満では転倒する率が4倍)
*TUG(肘掛け椅子の高さは46cm、3m先で折り返し)
転倒リスクはカットオフが13.5秒(10秒以内:異常なし、20秒以内:屋内外出可能、30秒以上:要介助。Bischoffは12秒をカットオフ値としている。)
(村永信吾「高齢者の運動機能と理学療法」PTジャーナル2009.10)
*10m歩行(24.6秒で屋内歩行自立、11.6秒で屋外歩行自立。他文献では各25秒、12.5秒という報告あり。)
・感覚(視覚障害、聴覚障害、前庭・平衡感覚障害、深部感覚障害)
・高次脳機能(言語障害、認知機能障害、記憶障害、注意障害、錯乱・せん妄、酩酊)
・心理要因(自信過剰、興奮、恐怖、あせり)
・状況
課題、訓練内容等
*バランスや歩行訓練は転倒と隣り合わせ
何に注意して行う。⇒バランスを崩す場面や方向を予測しておく。
介助につく位置、テーブルや協力者等の準備、どんな状況になったら危ないか(足が引っ掛かる、息切れがしだす等)。
②外的要因
<環境要因>
・履物(サイズがあっていない。すべりやすい素材。) ・段差
・滑りやすい床 ・凹凸のある床
・暗い場所 ・カーペット等の端
・コード類 ・障害物
・必要なものがとりにくい場所にある。 ・開き戸
・ブレーキがかかっていない車いす
<薬物による影響>
・睡眠薬、抗不安薬 ・抗てんかん薬
・降圧剤 ・抗うつ薬
・筋弛緩薬 ・パーキンソン病治療薬
・B遮断薬 ・副交感神経遮断薬
・製吐薬
<転倒時の対応>
*いきなり動かさない。
・意識、呼吸、心拍の確認
・疼痛の確認
⇒ショックや骨折の疑いがある、及び痛みの強い場合には無理に動かさず、助けを呼び対応する。
*可能であれば、安静位をとらせ以下の確認も行う。
・気分不快等の確認
・バイタルサインの確認
<リハビリ中の転倒予防のために>
・自分は患者様をすぐに支えられるか。
・両手はふさがっていないか。
・すぐに支えられる位置にいるか。
・訓練内容に無理はないか。
・どちらに、どんな時にバランスを崩すか予測できているか。
・「転ぶかもしれない」という心構えはあるか。
<在宅で起こしやすい転倒事故>
・転倒場所としては、若い高齢者では屋外での転倒も多いのが、年齢が高くなるに従って屋内での転倒も多くなる。
・屋内での転倒場所で最も多いのは居室(寝室)で、階段、台所、浴室、ドアの開閉時が同程度の割合で多い。
・転倒しやすい動作としては、方向転換、移乗動作、床からの立ち上がり、段差の乗り越え、階段昇降、脱衣動作、浴室への出入り動作が挙げられる。
<住環境・住宅改修へのアドバイス>
・身体機能、環境、介護能力から、移動様式を決定
例えば、杖歩行、伝い歩き、車いす全介助など、どの移動様式が適当であるか、また、手すりの設置をできる部分は伝い歩きとし、手すりを設置できない部分は車いす等複数の様式を組み合わせる。
・歩行が不安定だからといって、車いすにすれば安全とは限らない。
車いすにすると移乗動作が増えることになり、人によっては歩行より移乗動作の方が難易度が高いので、転倒の危険性が増すこともあるので十分に検討した上で移動様式を決定する。
・移動様式を伝い歩きにすれば、その人の生活範囲内で連続した手すりが必要となる。
・車いす移動にすると、段差の解消、間口の拡大が必要となる。四つ這いや座位移動にする場合、立ち上がり動作の指導、立ち上がり台、立ち上がり用の手すりの設置が必要になる。
<日常生活のポイント>
・無理に今までと違った生活パターンを導入すると、高齢者の場合は新しい環境に重農するのは難しく、住宅改修の結果、むしろ転倒の危険性が高くなることも少なくない。
・転倒の危険性があっても、歩かないと歩けなくなってしまうとの思い込みが、本人にも家族にも根強く存在している。身体機能の維持と安全性の確保は、違う次元の問題であり、身体機能維持のためのホームエクササイズを続けていく事も大切である。
・危険性があっても生活制限しない方が、身体機能の維持につながり、長期的には転倒予防になる場合と、生活制限をしなければ、「転倒→骨折→寝たきり」となる危険性が高い場合があり、それらを見極める必要がある。15cm程度の段差は手すりがあれば転倒の危険性が少なく、あえて段差を解消しない方が下肢の筋力が維持され、他の場所での転倒予防につながることもある。