ごあいさつ
脳梗塞・脳出血の方の失認(左半側空間無視他)について(セラピスト向け)
<失認>
物を見たり、聞いたり、触ったりして、それが何であるかを判定するには、それらの感覚路と、これを認知する大脳の機能が正常でなければならない。こうした感覚路(視覚、聴覚、触覚など)を通じて対象が何かを判定することができないことを失認(症)という。もちろん認知症や、意識障害などがあるときにはこういう症候があっても失認とはいわない。
1.失認の分類
1)視覚性失認
①視覚性失認
②色彩失認
③相貌失認
2)視空間失認
①視覚性定位障害
②半側空間失認(半側空間無視)
③地誌的障害(地誌失認、地誌見当識障害)
④バーリント症候群(精神性注視麻痺、視覚性運動失調、視覚性注意障害)
3)聴覚性失認
①精神聾
②純粋聾
③感覚性失音楽「症」
④皮質「性」聾
4)触覚性失認
5)ゲルストマン症候群
①手指失認
②左右識別失認
③失書「症」
④失計算「症」
6)身体失認
①両側身体失認(自己身体部位失認)
②半側身体失認
・病態失認(麻痺の否定など)
・半側身体失認
・半身喪失感
2.病識の低さについて
失語、失行・失認もないと思われるが、Nrs.からの他部門情報より、病識が低いということなので(障害の存在を否定する「病態失認」とまではいかないが(否認の程度によって「病態失認」と「病態無感知」に分けられる))、障害に対して無関心な「病態無感知」ということも考えられる。ただし、左片麻痺に多い病態失認(病態の否認)ですが、責任病巣としては右大脳半球、なかでも頭頂葉(下頭頂小葉)が多い。 一方、病態失認を広義にみた場合、他の脳領域も関連してくる。たとえば皮質盲に対する病態失認では、辺縁系および側頭葉の皮質連絡を含む病識が重要視されたり、社会的に不適切な行動に対する病識の欠如では、前頭前野の両側性の病変が重視されたりしている。また、病態失認を呈する患者には、覚醒水準の低下、自発性の低下、見当識の低下などを伴う事が多い。このことから、病態失認の発現には、脳の全般的な機能障害も必要であるという事も指摘されている。以上から、病態への全般的な意識性は脳全体の領域に関わるが、特定の脳領域の損傷によっては、病態への局所的な意識性の低下が引き起こされると考えられる。覚醒水準の低下はないが病識の低さと、左片麻痺に病態失認が多いということから、「(他部門情報で特に指摘されていない事から)軽度の病態無感知(局所的な意識性の低下)」があるのではないかと考えられる。
もしくは、軽度の注意力障害の影響や、煙草の本数から偏見で判断すると病前からもつ性格的なもの(せっかち、自分の体に対する健康・安全性への無感知)の影響ではないかと考えられる。
3.病態失認の対策
病態失認は普通は片麻痺の否認を指している。脳血管障害による右頭頂葉障害で起こる事が多い。
麻痺した手や足に絶えず注意を向けて動かす事が必要になるが、病態失認を呈している患者は、麻痺に対する病識がなかったり、病態への意識性が低いために、障害に対する努力的な態度が基本的に保持されない。能動的にも受動的にも、麻痺した手や足を何とか動かそうという態度に欠けている。これらの事はリハ治療の導入や進展を非常に妨げる事になる。病態失認への対策には、これらの点を考慮した多面的な働きかけが必要になる。
第1に、精神機能の全般的な活性化をはかる事が必要である。脳の代謝活動を増し、覚醒水準を高める事が大切になる。賦活効果や代謝促進効果のある薬物を適切かつ適量に管理して投与したり、運動療法により運動刺激を脳に流入させて脳を賦活したり、作業療法による作業課題を通じて適度な精神的緊張を負荷して活動性を高める事が必要である。股日常生活上では、睡眠と覚醒のリズムを一定に保ち規則正しい生活パターンを確立したり、栄養状態を適切に管理したり、散歩や人と接して会話をするなどが大切である。
第2に、自分自身や自分を取り巻く状況に関する意識性を高める事が大切である。そのために、自分の周囲の状況の理解(どこにいるのか、これから何をするのか、何のためにするのかなど)を深めるように働きかける。また面接や会話などを通じて、自分の身体の状況を的確に把握してもらい病感を養ったり、さらには正確な病識を得てもらうように働きかける事が必要である。
4.半側空間無視
高次神経機能障害と感覚運動麻痺などの一次的障害との本質的相違は、「意図性と自働性の?離」である。すなわち、検査では誤反応を示すが日常的自然状況では正反応を示す事がある、あるいはその逆の場合がある点である。例えば半側空間無視症例は、机上テストの線分抹消課題は全て抹消でき無視症状を示さない場合でも、病棟での車椅子移動では無視側のドアによくぶつかっている事がしばしば認められる。したがって、理学療法室での治療過程だけでなく病棟、家庭などにおける日常生活を把握する事が極めて肝要である。
程度の差を表すために、「不注意」と「無視」を区別する場合もあるが、実際的には両者の区別は困難である。
1)病巣と頻度
右半球の急性期脳血管障害においては、入院患者の約4割程度に半側空間無視が見られる。また、発症1ヶ月以降でも、リハ病棟の入院患者では、軽いものを含めると同程度の頻度で無視が認められる。無視を生じやすい病巣部位は、頭頂葉後部下方の下頭頂小葉、あるいは側頭・頭頂・後頭葉接合部を中心とする領域とされてきた。しかし、無視は前頭葉や深部病巣でも起こりうる。被殻出血や視床出血でも損傷範囲が大きい場合には慢性期に無視を残すことが少なくない。また他の部位でも起こることがあり、「右半球の脳血管障害は、ラクナ梗塞を除きほとんどどこに生じても無視が起こりうる。」したがって、常に無視の存在を頭において評価やリハビリテーションを進めることが重要である。一方で、左半球損傷における失語症に比べると、病巣部位と症状の対応が確実とは言えず、方向性注意の機能の右半球への側性化は、言語機能の左半球への側性化に比べて、個人差が大きいためと考えられる。
2)半側空間無視の発現メカニズム説
①空間性要因
・方向性注意障害
・方向性運動低下
・表象地図障害
②非空間性要因
・発動性低下、複数の方略の利用障害
・フィードバックの利用障害など
3)半側空間無視の評価
①半側空間無視現象
半側空間無視現象そのものに関するいわゆる机上テストについて、重症度を規定するために4つの異なった検査を用いる。すなわち、視覚的消去、線分二等分、線分抹消、二点発見の4課題である。
・視覚的消去課題:対座法で行い、まず同名半盲をチェック(視野検査)し半盲のない視野で行う(半側空間無視患者は、しばしば左下四分盲を伴い左同名半盲のこともある)。検者の指をすばやく動かし右左一側のみでは認知できることを確認して、両側同時で症例にとっての左側が認知できない(消去現象)場合は陽性とする。
・線分二等分課題:成績は用いる線分の長さが長くなるほど健常者のずれが大きくなる事が知られており、いわゆる健常限界は提示された線分長の半分の10%である。したがって20cmの線分では1cm位以上のずれを異常と判断する。
・線分抹消課題:40本の線分のうち何本消去できたかを記載し、1本でも抹消できずに残った場合に異常とする。
・二点発見課題:B4用紙の中央から左右水平に10cmずつ離れた所にある点を発見し、その2点を線で結ぶ課題である。検者はまず点の数をたずね、被検者が2点と答えて線で結べた場合は陰性、ヒント(検者が2点を指し示す)後に線で結べた場合は軽度陽性、ヒント後も結べない場合を重度陽性とする。
これらの課題の成績でよって重症度を操作的に求めている(下図)。
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困難 |
← |
→ |
容易 |
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USN GRADE |
視覚的消去 |
線分二等分 |
線分抹消 |
二点発見 |
軽症 |
GRADE 0 |
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↑ |
GRADE 1 |
* |
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GRADE 2 |
* |
* |
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↓ |
GRADE 3 |
* |
* |
* |
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重症 |
GRADE 4 |
* |
* |
* |
* |
課題の難易度と半側無視重症度の関係
注1)*はその課題で誤ることを示す。
2)GRADE0とは以前にこれらの課題に誤りを認めたのが認められなくなった状態をさす。
これらの課題は全て行っても所要時間は10分程度であり、発症直後のベッドサイドから繰り返し施行することが可能である。この重症度の分類では、特に線分抹消課題での誤りがあるかないかが日常生活自立度に重要な意味を持つことが知られている。
重症度に加えて、半側空間無視が知覚過程で起こるのか(刺激を認識する際に無視を生じる知覚要因の強いタイプ)、動作の遂行過程で生ずるのか(刺激に対応して行為を行う際に無視を生じる運動要因の強いタイプ)というタイプの問題も評価すべきポイントである(特に、遂行型では座っている時には左への不注意はそれほど見られないのにもかかわらず、車いす駆動時や歩行時には左側にある椅子や壁にぶつかってしまう。など)。タイプを鑑別するために、左右非対称な逆転模写課題を用いる。非対称な絵を用い、そのまま模写してもらう順方向模写とイメージ下にて左右を反対にして描いてもらう逆転模写を行うとよい。すなわちいずれの模写においても常に絵の左側を描き落とす(遂行型)のか、逆転模写において絵の右側(すなわち見本の絵の左側)を描き落とす(知覚型)のかにより鑑別が可能となる。しかし実際には、完全に2つのタイプに分類することは困難であり、理学療法アプローチを考える上では、どちらの要素が強く現われているのかを評価する事が重要である。また、例えば左から声をかけた時に却って右を向いたり、閉眼によって頭部が正中化するような例では視覚的手がかりが有効ではなく、動作の遂行過程での無視が起こっている可能性が高い。このような例では非視覚系からのアプローチが必要である。
机上テストで半側無視が検出されなくなっても、日常生活動作のなかでは、顕在化することがある。行動に現れる無視現象については行動性無視検査(日本語版BIT)がある。BITは、従来の机上検査を複合した「通常検査」と日常生活場面での「行動検査」から構成され、今後共通の評価法として重視されている。
*幅広い行動の観察:
無視があるというのは容易であるが、ないといい切ることはきわめて難しい。机上の検査のみで、幅広い日常生活場面において無視が現われないであろうという予測をする事は困難である。特に、移動能力が高い症例ほど十分に幅広い行動場面を観察する事が重要である。
*全般的な注意・知能レベルの評価:
臨床的に見られる無視は、空間的な左右の処理レベルの差と非空間的な全体障害の総体である。発動性、注意の集中・持続に問題があれば無視症状は重く現われ、これらを向上させれば無視がある程度改善する。また、言語性の知能が保たれていれば、課題によっては代償が可能な場合がある。したがって、最低限、長谷川式簡易知能評価スケールまたはMMSEを実施しておくべきである。また、WAIS-Rにおける言語性IQも参考になる。
*病識の問題:
無視患者は、初期には自分の症状に気づいていない。しかし、左側をぶつけたりする事により、何かがおかしいことを体験的に気づくようになる。左側の見落としを指摘すれば、その時は気づくことが少なくない。しかし、無視による問題をどの程度深刻に受けとめているか、また、そのリハビリテーションに積極的に取り組む姿勢があるかを評価しておく必要がある。
*自動車を運転させてよいか:
発症後1ヶ月以上、無視が認められる場合、医療サイドとしては、拘束力はないが車の運転は禁止しておく。ほとんどの評価で無視を克服していても反応に時間がかかっている場合が少なくないことも理由の一つである。なお、視覚消去現象がある場合にも車の運転を禁止した方がよいという意見もある。
②起居移動動作の理学療法評価
起居移動動作のそれぞれの姿勢ごとに半側空間無視がどのように現われ得るかについて述べる。
1.臥位
背臥位では顔面は非麻痺側を向いていることが多く、体幹長軸がベッドの縦方 の軸に対して斜め(方向は左右どちらの場合もある)になっている。また、しばしばベッド柵を非麻痺側上肢でつかんでおり、非麻痺側への体幹回旋が生じ相対的に麻痺側肩関節が取り残されたような姿勢になる。寝返りおよび起き上がり時には左半身に無関心のように行い、本能性把握、病態失認の合併などでこの傾向がさらに助長される。
2.坐位
半側空間無視に加え重度片麻痺を伴う場合には坐位保持が困難となることがある。一般に坐位により発達レベルが高位の姿勢での動作での抗重力姿勢の評価では、「静止保持」「外乱に対する反応」「随意的動的活動」の視点から分析検討する必要がある。
半側空間無視症例ではこのいずれのレベルでも障害される可能性があるので注意を要する。重症例では背もたれなしでの静止保持がまず困難であり、麻痺側後方へ崩れていく事が多い。車いす坐位では殿部が徐々に前方に滑り落ちてしまう。このような例では麻痺側殿部に楔状のマットなどを挿入し持ち上げることで姿勢を保持できる場合がある。
3.立位
平行棒による支持および長下肢装具による麻痺側下肢支持などが必要になることも多い。顔面および上部体幹は非麻痺側に回旋し非麻痺側に側屈する。平行棒内であっても立位が困難な例の場合には、昇降可能な傾斜台に腰かけ殿部を高い位置にしてから立位にすることで可能となる。また車いすからベッドなどへの移乗動作の時には、いったん右手でベッド柵などをつかむと、そこから左側へ離れて移動することが困難になるので、介助者の首に手をかけて移乗動作を行ったほうが安全である。
4)USNに対する理学療法
①無視に影響を与える要因
1.視覚刺激
左側の無視空間へ注意を喚起させる手段としては、ⅰ.左空間へ視覚的手がかりを与える。ⅱ.右空間からの視覚的情報を減少させる。の2点が考えられる。一見同じような事ではあるが、USN例では無視側と非無視側への刺激の与え方により反応が異なる。例えば、線分2等分課題において、左側あるい右側に文字を書き、左端に書いてある文字を読んでから行うと(視覚的手がかり)有効であるという報告もある(変化しないという報告もあり、病巣の違いによりUSN症状が異なっていたとも考えられるが予測の域である)。また、線分抹消課題を従来の線分に印をつける方法ではなく、線分自体を消していくほうが左方向への探索が増加した事から、右側の過剰な注意を減少させる事が左USNの改善に有効であると報告している。
このように視覚刺激に対する反応は症例により異なるため、どのような刺激が無視の改善に有効であるのか(すなわち左側への刺激を増やすか、右側の刺激を減らすか)を各症例ごとに考慮する必要がある。
2.体幹回旋
視空間の認識は頭部ではなく体幹に依存しているという報告もあり、線分二等分課題を用いて頭部および体幹の影響について検討し、体幹を左に回旋させた時に最も左USNが改善する事を報告した。これまで左側への注意を喚起させるためには、単に顔を左に回旋させることに重点が置かれていたが、体幹の回旋の影響が強い患者では、顔よりもむしろ体幹を左に回旋させるほうが有効である。
3.電気刺激
左後頸部筋への電気刺激が、方向性の注意を喚起する事に加え、全般的注意あるいは覚醒レベルを向上することにも関与していると考えられる。電気刺激は、通常市販されている軽量で小型の低周波治療器でも可能であり、立位や歩行改善にも容易に利用可能と考えられる。
4.覚醒レベル
重度のUSN例は左側への方向性注意だけではなく、全般的注意や覚醒レベルも低下し、また、重篤な運動麻痺を有している場合が多い。このような例は坐位での訓練を施行しても反応が低く、効果が期待できない事が多いため、早期より長下肢装具を使用して麻痺側下肢をほぼ他動的に振り出し、介助歩行を行う場合がある。歩行前後で、方向性注意を反映する線分二等分課題には変化が見られないが、全般的注意をも反映すると考えられている線分抹消課題では、歩行直後のほうが抹消数が増加し、また呼びかけに対する反応も良好となった。このことは重度のUSN例に対しては、坐位において刺激を与えるよりも、歩行という全身を使用した運動の方がUSNの改善に有効であることを示唆している。
*以上のように、同じ検査バッテリーを用いても、その提示方法により反応は様々である。したがって、単に机上の検査でUSNの有無や重症度を評価するのではなく、どのような方略がUSNの改善に有効であるのかを評価し、理学療法に応用していくことが重要である。
②理学療法アプローチの実際
USNに対する治療は坐位姿勢で行われる事が多く、主として作業療法が関わっている。しかし、移乗動作や歩行時に生じる無視現象は転倒を招く恐れがあるため、理学 療法場面でも積極的に対応していかなければならない。
例えば、重度のUSN例では上述したように積極的な立位・歩行訓練を行う。まず平行棒内立位から開始し、平行棒内歩行、杖歩行へと移行していくが、左側からの呼びかけ、体幹の左回旋、左頸部への電気刺激などが有効であるかどうかを確認し、適宜取り入れる。右向き傾向が強い例では、右側からの刺激量を減少させるため、前方の肋木を使用した立位訓練、杖を前方につく、あるいは杖を持たずに歩行をするなどの考慮が必要となる。左側へ注意を促す方法として、床に目印となる線を引き、最初はその線を右足で踏みながら歩行し、次に両足の間、左足というように徐々に左方向へ注意を喚起させていくとよい。また、右手に長い棒を持ち、線の上をなぞりながら歩行する方法も有効である。歩行が監視レベルの者には、椅子すり抜け歩行を行う。これは3m程度の感覚で椅子を直線的に並べ、その間をスラローム様に歩行し、左側への注意を喚起させるというものである。
<半側空間無視のリハビリテーション>
1.見落としのフィードバック→病識の獲得
2.幅広い条件を想定した訓練
・課題の種類:探索課題、読み、模写・描写、道順など
・感覚モダリティー:視覚、触覚、聴覚
・患者の生活空間への適応
3.左方探索の促進方法
・右側刺激の除去・段階的追加
・注意すべき部分に目印をつける
・言語性知識・指示の利用
・発動性の向上
4.幅広い評価方法
・スクリーニング検査(BIT通常検査)
・日常生活場面を想定した検査(BIT行動検査)
・定量的線分二等分試験
・日常生活動作・移動場面での評価
5.訓練期間
中~重度例では必要に応じて3ヶ月以上を考慮
*無視患者において移動時の監視はなかなか介助できない。また病識の面で、患者は自分では注意してできるという意識が強い。病棟では必ず看護士やヘルパーを呼ぶように指導しておく。コールには迅速に応じないと、一人で移乗を実行して転倒事故の原因となる。介助から監視レベルになってから、自立とするには十分な観察期間を要する。無視の存在を念頭においた幅広い場面でのリハビリテーションのほうが効果的といえる。病識を促すために左側の見落としを指摘する必要があるが、行動面にはなかなか還元されない。重度の患者では、右側の刺激の存在が左方探索を悪化させる。そこで、並べた積み木を片付けながら左方まで探索させるなど、刺激密度を減らす工夫が必要である。無視があっても言語性IQが良好に保たれていれば、時計の文字盤を描けることも多い。これは言語性知識による代償と考えられる。
*左ブレーキの操作忘れがないように「右、左」と声を出して確認する事も重要であるが、患者の主観的な左にとどまらないように注意が必要である。そこで、車いすの左ブレーキや食事のトレイの左側など注意すべき部分に「目印」をつけるとよい。目印は訓練達成後に除去しても効果が持続することがある。この場合でも、効果は訓練した状況に限定され汎化しにくく、様々な場面を想定した訓練が重要といえる。慢性期に残った無視が、検査上でも日常生活場面でも完全に消失することは難しい。リハビリテーションの進行とともに、行動範囲が広がるとそれに応じて新たな危険が生じる。家族や介護者に対して、無視に伴って起こる危険、問題点、対応方法を指導する事も重要である。無視はなれた生活空間では代償可能となる場合も少なくなく、帰宅後の生活に早く慣らすような取り組みが必要である。
*また、新しい取り組みとして、プリズム眼鏡をかけて訓練すると半側空間無視の改善が見られるという方法も出てきました。