ごあいさつ
脳・神経の姿勢・運動制御システムについて(セラピスト向け)
○姿勢の役割
・重力に対抗してあるいは従って自己身体をコントロールする能力で、あらゆる運動の基礎となります。
・動作と知覚とのインター・フェース(外界と身体との間の相関を制御します)
○Postural Control
Postural orientation:空間で身体各部の位置関係を適切に維持し、身体と環境の適切な関係を作ります。
Postural stability:バランスそのもの。支持面(BOS)に対して質量中心(COM)を制御する能力。
○姿勢と運動
・姿勢は影のようなもので、運動と共に存在します。
・姿勢の協調性は複雑であり多様です。
・姿勢は運動と同じようにダイナミックであり活動的です。
○姿勢・運動制御の構成要素
・下図のように姿勢制御と運動制御は個人の能力、遂行しようとする課題、環境要因の相互作用によって決定されます。
⇒よって、個人の能力に合わせてどのような環境条件で、どのような課題を通して運動学習をおこなうかをセラピストが考えることが重要となります。
・また、姿勢や運動をコントロールするには、脳内で再現されている身体図式が重要となります。
・身体図式は様々な多重感覚によって、身体各部の肢位や身体各部の位置関係、身体と環境の関わりについて統合し、いつ、どこで、どのように動かせばよいかを脳内で再現したものになります。
⇒中枢神経疾患患者様の身体図式を良くするには、姿勢アライメントを調節して環境との関係で様々な方向の運動を実現することが重要となります。
○姿勢制御と運動制御の神経機構
姿勢・運動制御にとって必要な神経経路
①上行性経路(ascending system)
・後索を上行する薄束と楔状束があり、内側毛帯を経由して視床に至り、体性感覚野に繋がります。主に、体幹と四肢からの認知に関係する触覚と固有感覚に関与します。
・前外側経路は、脊髄網様体路、脊髄中脳路、脊髄視床路からなります。主に痛覚、温度感覚、触覚と関与しています。
・前・後脊髄小脳路は、体幹と四肢の無意識の感覚情報を小脳に伝えます。この他に小脳への経路は、吻側脊髄小脳路と楔状束核小脳路があります。
・その他に、脊髄オリーブ路等があります。
②下行性経路(descending system)
・腹内側運動系は、前皮質脊髄路、皮質橋網様体脊髄路、皮質延髄網様体脊髄路、皮質視蓋脊髄路、前庭脊髄路があります。主に体幹・四肢近位部の姿勢制御、運動中の姿勢調節に関与します。
・背外側運動系は、外側皮質脊髄路と皮質赤核脊髄路があります。主に四肢遠位部の随意運動に関与しています。
・その他には、縫線核脊髄路、青斑核脊髄路等があります。
*内側運動系は、大脳皮質、大脳基底核、小脳、中脳等様々な領域から情報を集めて、脊髄の多分節に広く分布しています。このシステムは頭頸部コントロール、姿勢調節やバランスに関与しています。特に皮質から橋・延髄網様体には両側性に繋がり、さらに橋・延髄網様体脊髄路は同側性支配、対側性支配、両側性支配があります。
*外側運動系は、大脳皮質から直接あるいは赤核を介して脊髄運動ニューロンに繋がる経路であり、意思運動に直接関係しています。広い領域から情報を収束するように支配されています。特に四肢遠位部の選択的・巧緻的運動に関与し、限局した脊髄分節に指令信号が伝えられます。
*ここでは記載しませんが、姿勢制御と運動制御には大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核、小脳、中脳、橋、脳幹の諸核が重要な役割を果たしています。
○随意運動について
身体は運動を実行する器官であり、同時に情報収集を行う器官でもあります。随意運動は触れることで知るために必要な運動であり、探索的であることが運動の意味になります。下記の図にもありますが、運動には本人の意思や情動、目的に基づいて指令が発生され、様々な部位が関係しあって実行・制御されています。
〇随意運動の姿勢反応に関する主な特徴
・姿勢反応は随意運動に先行して起きるものであり、随意運動中の身体の移動を最小限にしようとするものであります。
・姿勢反応は周囲の状況や動作の前後関係に応じて変化します。
・姿勢反応は個人の意思や感情の状態に影響されます。
・姿勢反応は学習や経験に修正されます。
○先行随伴性(予測的)姿勢制御
運動に伴う姿勢調節には2つの要素があります。
・フィードフォワード制御:活動前の準備と運動遂行中の制御
・フィードバック制御:想定外のことが起きた時に対応する制御機構であり、反応的制御
〇予測的姿勢制御(APA’s)(2つ上の図)
・姿勢は運動状況に適合し、予測反応を使用して調整されます。
・随意運動の予測される妨げに対して身体を備えるフィードフォワード姿勢コントロールに依存しています。
・準備的姿勢調節 preparatory Aps (pApa)は、運動に100ミリ秒先行して生じます。
・随伴的姿勢調節 accompanying Aps (aApa)は、運動時に生じるものであり、運動時に身体あるいは身体部位を安定させるものであります。 pApaと同時進行で働きます。
・経験依存的であり、学習された反応。運動学習により獲得されます。
* APA’sは外部の固定されたバーを握った強固な姿勢であったり、極めて不安定な姿勢で運動をした場合には発現しません。
⇒発現には、固定的な姿勢や不安定な姿勢の改善が必要となります。
○コア・スタビリティ(腰腹部の動的安定性)
・先行性随伴性姿勢調節はコア・スタビリティを働かすのに不可欠。
・関与する筋群は、横隔膜、腹横筋、内外腹斜筋、腹直筋、骨盤底筋群、背部の深層筋、特に多裂筋は重要な役割を果たしています。
・腹内側系の橋網様体脊髄路が前庭脊髄路とともに、姿勢コントロールをメインに行います。
・意識にのぼりません。
・体幹を垂直に維持する姿勢、立位・座位では特に重要になります。
⇒中枢神経疾患患者では、支持性の低下や屈曲有意な姿勢になりやすいです。
・上肢拳上の際には、三角筋の活動に先立って腹横筋等が働きます。