ごあいさつ

パーキンソン病の具体的な運動療法について(実践編)

線.jpg

①関節可動域練習・モビライゼーション

足でいうと、ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)と膝裏、ふくらはぎの筋肉が硬く・短くなりやすいです。また、足をひねる筋肉(お尻の外側)と太もも、足の付け根の前側の筋肉も硬くなりやすいです。それらに対して、筋肉の粘弾性を促していくマッサージを必要に応じ組み合わせながら、関節の動きを促すモビライゼーションや筋肉の長さを促すストレッチ等を行っていきます。


例、○膝裏のマッサージ

  ○膝蓋骨のモビライゼーション

  ○ハムストリングスのストレッチ

 

②姿勢改善エクササイズ

座位で骨盤が後傾しやすいので、骨盤を起こす動きを誘導していきます。また、背中も丸くなっていることが多いので、同時に背骨も伸ばしていきます。自身で背筋を伸ばせることが出来る方であれば骨盤を起こす動きだけを手伝うなど必要な分だけ介助していく。自身で背筋を伸ばすことが難しい場合は、セラピストが後方より骨盤を起こす動きと背骨を伸ばす動きを介助して練習する。


 ○座位で骨盤前後傾・脊柱の曲げ伸ばしの運動を促通する。 


③座位バランス練習

 座位は寝ている姿勢から立っている姿勢までの中間姿勢であるため、体幹・骨盤・股関節の選択的運動を段階的に練習することが出来ます。パーキンソン病の方は背中の筋肉の緊張を強めてしまっている場合が多く、そのためお腹の筋肉が働きにくくなっています。それらに対し、セラピストが後方から身体を接触させての介助を行い、背中を安定させることにより、背中に過剰に力が入りにくく、お腹にも力が入りやすくなります。そうすることで動きが固定されてしまっていた体幹と骨盤、股関節の運動性を促し、併せて首や体幹を垂直に保持しようとする立ち直り反応を促すことができます。このような背骨をしっかりと曲げたり、伸ばしたりなめらかに動かしていく運動を練習していくことで、起き上がり動作や立ち上がり動作での体幹の伸展と骨盤、膝関節の選択的な運動を準備することができる。


④寝返り・起き上がり動作練習

 寝返り動作練習では、肩甲帯が外転位に位置しているものの、拳上・内転方向に引かれており、肩甲骨の動きが乏しくなっていることが多いです。そのため、首や体幹が肩甲骨の動きにあわせて立ち直ってくる反応(肩甲骨が外転・前方回旋すると頸部が屈曲してくる等)が生じにくくなっています(重心が後方に残りやすい)。そこで練習の中では、対象者様の手や肩甲骨を介助し、肩甲骨が外にひろがり、背中や首の後ろを長く伸ばした中で、腹筋群がしっかりと働くことを促していきます。そして徐々に体幹をねじる動きを促していくと、頭や体幹の立ち直り反応が出現してきます。そして、それらが得られてきたら寝返り動作練習の中で骨盤と両足の分離した運動、股関節伸展・外転・回旋の動きを求めていきます。


⑤床上動作練習

 パーキンソン病の方は体や股関節周囲の硬さ、特にひねる動きが難しくなるので、寝返り動作と同様に、床から立ち上がる・座り込むといった動きが大変になることが多いです。しかし、逆に考えると四つ這いで体を動かす運動や両手をついて床から立ち上がる、膝立ちでのバランス練習などは、「重心が低い。」「手のひらや膝、肘といった支持面に接している部分から感覚情報が入りやすい。」「立位より支持面はひろくとりやすく姿勢が安定させやすい。」といったプラス面がある中で、肩や股関節を大きく動かす。重心を上下方向に移動させる。体をねじる動きを行う。といった苦手となりやすい動きを練習することが出来ます。


 ○四つ這いで左右への重心移動や手や足の曲げ伸ばしを行う。

 ○四つ這いで手足を軽く浮かせる、または体と水平になるくらいまで持ち上げる。

 ○膝立ち位で股関節の屈伸を行う。

 ○片膝立ち・床からの立ち上がり動作を行う。 


⑥立ち上がり動作練習

 立ち上がり動作とは、座位という比較的安定した姿勢から両足の裏という狭い支持面に移行する動作になります。その為、この動作自体がバランス練習と両足の筋力強化練習となります。しかし、パーキンソン病の方の多くが立ち上がる時に、体を丸め、両手で座面や手すりを支え、骨盤はおこさず後方に重心が残ったまま動こうとされます。特に座り込んでいく動きが苦手な方が多く、緩やかに膝を曲げていくことができずドスンと座り込んでしまう方もいらっしゃいます。そのため、立ち上がりや座り込み動作をきちんと行う事で足・膝・股関節・背骨といった関節を連動させて動かす練習、筋肉をコントロールしながら働かせる練習(協調性)にもなります。


⑦立位バランス練習

 パーキンソン病の方は立っていると膝や背中が曲がってしまう姿勢をとりやすいです。特に座っている時には背骨を伸ばせるようになっても、立位になると骨盤が起きにくくなり膝や股関節が曲がってしまう方が多いです。ふらつきを感じられる方はなおこのように体を縮めこもうとする様子が著明になります。パーキンソニズムの方や一部のパーキンソン病の方ではこの逆におへそを前にだし、背中と膝を伸ばしきって、つっぱり棒のように支えようとされている方もいます。

そのため、練習の中では床上動作と同様に、まずは両手でテーブルや手すり、セラピストの肩などを支持し、安定した中で体や両足を伸ばして姿勢を保つ練習から進めていきます。そこでセラピストは介助を通じて、関節が正しく伸びた位置で働き、支える感覚を学習させていきます。特にお尻の筋肉(股関節の伸展・外転)がしっかりと働き、骨盤を起こしておけることが大切になります。ここの働きが弱いと膝や背筋を伸ばす筋肉が働きにくくなります。お尻の筋肉が働きにくい方は、正しい位置をセラピストが介助した上で荷重を踵にのせていったり、あえてステップ練習(足を前に出す)を行ない荷重量に強弱・変化をつけることで、足の裏、踵に感覚情報が入りやすいように工夫しながら練習していきます。


○立位保持練習:

○ステップ練習:

○片足立ち:立位バランスを強化するために足の選択的な伸展での支持性を促していきます。


⑧歩行練習

 パーキンソン病の方が主訴で一番多いのは、“歩くことが大変になった”ということだと思われます。「歩くとふらふらする。」という不安定さの問題から、すり足や小刻み歩行、すくみ足、前方突進など疾患特有の問題も多く見受けられます。また、方向転換、段差、坂道などでバランスを崩しやすく、転倒や外出機会の減少など二次的な問題につながりやすいです。さらには、歩行スピードの減少、歩容の崩れ、耐久性の減少なども加わります。


 それらの問題を解決していくために、

(1)歩容の改善、適切な歩行動作の学習

 歩行では、そのフレーズごとに正しい感覚情報、正しい筋肉の働き(タイミング、スピード、協調性)、安定さを保つためのバランス反応などが求められます。そのためには歩行の際のより適切な姿勢、手足の位置・動きなどが重要になってきます。そして、実際の歩行練習の際には、上記のことを意識して歩いたり、必要に応じてセラピストが身体の一部を介助して、より適切な動きを促しながら歩行練習を行います。そういった練習を繰り返していく中で、筋肉、関節、脳・神経に適切な動きを学習させ、普段の歩行における安定性や効率性の向上を目指します。特に頭や体をしっかりと起こすこと、足でしっかりと後方に蹴りだすこと(骨盤からの重心移動)、体幹の回旋(ひねる動き)などを誘導して行います。


(2)リズミカル・自律的な歩行につなげる。

体幹の回旋をともなったリズミカルな歩行を継続的に行っていきます。すくみ足やすり足が生じやすい方は、床にはったテープやラダーをまたがせるといった視覚刺激や一定のリズムの音楽や声かけなどの聴覚刺激を用いながら歩行していきます。徐々にセラピストの介助や視覚・聴覚刺激をなくしていき、自律的な歩行につなげていきます。


(3)応用歩行練習

自律的な歩行が獲得できてきたら、スピードや方向の変化を与えて、横歩き、後ろ歩き、方向転換などの経験を促していきます。軸足で体重を支え、反対の足を色々な方向に踏み出したり、股関節・体幹を回旋させることが難しくなっているケースも多く、最初は軸足への重心移動と回転していく歩行への体の回旋を誘導して練習していきます。


*必要に応じトレッドミルなども使用します。

 接地面が一定の速度で動くことにより、リズミカルに、大きな歩幅で歩くことが自然と促されます。また、トレッドミルで後進歩行をすると歩行能力が向上するとの論文もあり、軽度の方であればそういった応用歩行にも利用できます。また、マイマウンテンという斜度をつけられるウォーキングマシンでは坂道の練習や足腰の筋力強化も兼ねた歩行練習が可能となります。 


⑨段差昇降練習

 段差でバランスを崩しやすい方も多く、特に降段時に不安定さや恐怖心を感じやすくなります。そういった方は普段から足を突っ張り棒のようにして歩かれていることが多く、膝関節のコントロールや足を曲げた際の支持性などを促していきます。また、同時に片足立ちに近い動きになるため、支持する足の安定性の向上を促す練習にもなります。特に降段時には両足の協調的な働きが求められ、足の筋力強化の効果も期待できます。慣れてきたら登り坂や下り坂など、段差以上に前後方向にバランスを崩しやすい状況での歩行練習なども行っていきます。


⑩日常生活動作練習

 パーキンソン病の方で、更衣動作や入浴動作などの日常生活動作が困難になることがあります。その他にも発声や嚥下などを含めた口腔機能の低下や食事動作の困難さを呈している方もいらっしゃいます。また、比較的身の回りのことを行われている方の場合、家事や書字など応用的な日常生活動作で問題をかかえていることもあります。

それらに対し、実際に困難になっている動作を観察・評価し、何が原因で難しくなっているのかを分析します。そして上記のリハビリに加え、問題点に対する機能訓練や実際の動作練習を通して課題の解決を図っていきます。


 

 

 

参考文献 ◆「考える理学療法|評価から治療手技の選択(中枢神経疾患編)」

      文光堂、編集:丸山仁司、竹井仁他


     ◆姿勢調節障害の理学療法

       医歯薬出版株式会社、編集:奈良勲、内山靖

 

線.jpg