ごあいさつ

パーキンソン病の運動療法について(概論)

 線.jpg

①関節、筋肉、皮膚、皮下組織の柔軟性を高める。

 パーキンソン病の特徴でもある固縮は、関節、筋肉、皮膚、皮下組織の柔軟性を低下させます。イメージとしては、足を曲げ伸ばししようとした時に、曲げる動きも、伸ばす動きも抵抗が生じやすく、膝蓋腱反射(いわゆる脚気)がでにくくなります。また、振戦により手足だけでなく体全体が揺れて不安定に感じる症状も呈しやすく、体全身の筋の緊張を高めやすくなっています。そのため、立位では本来前後左右に重心を移動できるところが、動かないように、倒れないようにとギュッと動きの固定を強めてしまうことが多いです。その結果、物を取ろうと手を伸ばしたり、人とすれ違うのに後ろを振り向こうとしたりするちょっとした動きでバランスを崩しやすくなってしまっています。また、歩き出す時には本来重心を片方の足に移動して、もう片方の足を前に振りだし、重心を前方に向かわせて歩き出すわけですが、この一連の動きが固定を強めてしまうことでスムーズに行う事が困難になってしまうことがあります。いわゆるすくみ足といわれるものです。また、トイレや台所などの狭い空間で向きを変えたり、外出時にお店の中で人をよけたりする時にも上記の固定を強めてしまっていることにより、動作が困難になっていることが多いです。

 特に足の場合は、クロートゥーというバレリーナが足を伸ばすように、つま先をさげ、指先を曲げた状態になってしまうことが多いです(反対に足先が過剰に上に上がってしまう事もあります)。こういったケースでは足裏からの皮膚刺激に対し、過剰に同時収縮を強め、足首や足指を曲げることも伸ばすこともしにくい状態になっている方が沢山いらっしゃいます。この現象が立位や歩行だけでなく、寝返ろうとした際の下側の足で体重を支え、反対の足を動かしたり、立ち上がり動作の際に足裏に体重を移動してのせていく動きを難しくしています。さらに、上記のような固縮や過緊張による柔軟性の低下やアライメントの異常(足先が顕著に下がっている、背中や膝の曲がりが強い等)は、動きが乏しくなってしまうことにより、固有受容感覚という「皮膚や関節がどのように接地面を感じとっているか、関節がどのくらい曲がっているか、どの位置に重心がかかっているか」といった感覚を鈍くしてしまっており、姿勢を保ったり、バランスを崩さなようにする能力に影響していると考えられています。

 

②柔軟性を高めることで姿勢の改善を図る。 

横から見た場合の姿勢は、背中・首は曲がっており、頭と首の付け根が過剰に反って苦しそうに顔を挙げている状態を呈しやすいです。また、骨盤は後ろに傾き、腰や足の付け根、膝は過剰に曲がり、それに伴い足首は曲げた状態となり、後方に重心が残りやすいため足の指は曲がっていることが多いです。さらに両肩は前方に出ており、肘は曲がった状態になりやすいです。 

 正面から見た場合は、骨盤が左側に傾き、背骨は右に曲がっており(側弯、骨盤に対し体の正面が右に捻じれている)、頭を正面に戻そうとするため、首は左に傾けている(首を左に倒し左に顔を回している)姿勢をとることが多いです。もしくはこの逆になっています。 

 特に全体的に体が丸くなってしまいやすく、関節が曲がってきてしまうと捻ったり横に曲げたりする動きをしにくくなるので、起き上がり動作や歩いていての方向転換等が行いにくくなります。また、前後左右に身体的な歪みが生じていることで、上記のバランスをとる反応(左に体が傾けば首を右に倒し、体が倒れないように体全体を立て直そうとする反応)が得られにくくなっています。

 

③柔軟性を高めることにより固有感覚フィードバックを活性化させバランスの能力を高める。 

 上記のように自分の体がどうなっているかをしっかりと感じ取ることで、バランスが崩れそうになったら立て直す反応、前方や側方に倒れそうになったら一歩足を踏み出し倒れないように支える反応(転んだ際に手をつく反応も含む)を促通していきます。こういった姿勢をリラックスして保てるようになることで、立位での足の細かい動きや重心移動が感じ取りやすくなり、歩き出しや転倒予防につながります。また、首が過剰に曲り、喉の通り道が狭まっていたり、手や指先の細かい動きが難しくなっていることに対しても、改善の効果が期待できます。その結果、嚥下や構音に必要な顔面・口唇・舌・頸部(咽頭や喉頭)の協調性を促すことも可能と言われています。いわゆる飲み込みにくい、むせやすくなった、発声がしにくい、声量が低下した等の問題がある場合には、こういった要素へのアプローチが有効になります。

 

④体幹・手足の筋力強化

 パーキンソン病の方の特徴である前屈み姿勢や脊柱の動き、特に回旋動作の運動性低下により、体幹筋や股関節伸展・外転筋群などの筋力の低下を呈しやすいです。それらに対して、上記の寝返り・起き上がり動作や座位バランス練習といった動きの中で体幹や股関節周囲の働きを促通していったり、個別の筋肉の働きを自重やゴムバンド等による負荷をかけながら維持・強化を図っていきます。特に背中や足の付け根、膝が曲がりやすいので、お尻まわり、太もも、ふくらはぎといった良い姿勢を保つための筋肉の働きを促していきます。

 

⑤座位・立位バランス練習 

 疾患の影響で背中や腰が丸まった姿勢をとりやすく、体を固定的にしてしまうことで重心の移動や動き出すことが困難になってきます。また、物を取ろうと手を伸ばすことやズボンや靴下をはくことが難しくなり、バランスも崩しやすくなります。

そのため、まずは座位・立位で骨盤を起こして、背筋を伸ばした姿勢をとれるように促していきます。そして、左右前後方向へ重心を移動させたり、物に手を伸ばす、後ろを振り向くといったバランスをとりながら姿勢をコントロールする練習へとつなげていきます。

 

⑥歩行練習・段差昇降練習 

 疾患の進行に伴い、歩くことが遅くなった、ふらふらする、疲れやすくなった、息切れがしやすくなった等の歩行の問題が生じてきます。さらに、疾患の特徴でもあるすくみ足、すり足、前方突進といった症状が強くなると転倒の危険性も増し、外出などへの不安が強まってしまいます。 

 それらに対し、筋力などの機能練習に加え、実際に歩く練習を通して、歩く姿勢やリズム、足を後ろに蹴りだす時や振りだす時など各フレーズに合わせて筋肉を協調的に働かせる動きを学習していきます。その際に、必要に応じてテープやラダーをまたぎながら歩くなど視覚からの刺激を用いて練習を行ったり、方向転換や後ろ歩きなど転倒予防や屋外での歩行を意識した練習も取り入れながら実施します。 

 また、段差昇降などの練習を通じて、上下方向の重心移動や膝を中心とした関節のコントロールを促していきます。これらの練習は踵で支える、足先をあげる、骨盤をコントロールするといったパーキンソン病の方が苦手とする要素を改善するために適した練習だと考えます。

 

⑦日常生活動作練習

 上記で改善を図った身体要素を日常生活で活かすために更衣や床からの立ち上がり動作など実際の生活で課題となっている動作を練習していきます。必要に応じて動作のやり方を変更したり、手すりや補助具の導入についてアドバイスを行います。

 

参考文献 ◆「考える理学療法|評価から治療手技の選択(中枢神経疾患編)」

      文光堂、編集:丸山仁司、竹井仁他

 

     ◆姿勢調節障害の理学療法

       医歯薬出版株式会社、編集:奈良勲、内山靖

 

線.jpg