ごあいさつ

慢性期成人片麻痺者の特徴とリハビリ(セラピスト向け)

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特徴として、努力性の歩行などによる麻痺側上下肢の定型的パターンの長期にわたる反復が非効率的な運動感覚経験という学習につながっています。

 ⇒結果として、麻痺側上下肢の運動パターンの非効率性が強められています。

 

その背景として、

 

非効率運動パターンの構築化

 

連合反応による痙性の増強といった神経原性要因からくる協調運動障害の強化

 

⇒麻痺側片麻痺患者の非効率運動パターンを機能的パターンへと変えるには、片麻痺患者自身が自らの身体の状態に気づき、機能的運動の達成のため必要時に注意を向け、客観的に非対称に歪んだ身体図式を思い浮かべ自己修正を根気強く実行できるように、療法士は介入し励ますことが求められます。

 

なお、脳の可塑性とは、新たな学習や経験をすることによって脳細胞のシナプスが変わり、これにともない行動にも変化が現れることです。(脳の損傷した部分を補うために、脳の他の部位は自らの構造を変化させ役割を変える可塑性という特性をもっています。)

 

*長期の経過により、麻痺側の回復はプラトーに達していても、両側を治療対象にしているので、非麻痺側を含めた新たな身体の使い方と神経ネットワークの再構築を行います。

 

*非損傷脳半球からの損傷脳半球への抑制と損傷脳半球の皮質内抑制が作用しています。

 

 

 

 

 

  

 

非神経原性要因による機能低下

 

脳卒中後の筋肉等の萎縮や短縮、そして持久性の低下といったいわゆる筋力の弱化

 

痙性、弛緩、短縮や筋力の弱化等は、広くは上位運動ニューロン症候群とされます。

 

これらの脳卒中後の加齢が助長を加えます。

 

(痙性をもつ拮抗筋による相反抑制のため主動作筋は弱化します。また、痙性による同時収縮が起こり、四肢の運動性に富んだ荷重が困難となります。四肢の選択的に必要な近位部の安定性に欠け、協調性のとれた運動が困難なため、麻痺側上下肢は全体的運動パターンで動いてしまいます。固有感覚や触覚の欠如は、空間における四肢の運動の方向性を困難にします。)

 

*非神経原性要因と脳との関係

 

麻痺によってある関節が動かなくなると、その動きを感知する脳の領域の神経が萎縮してしまいます。動きのなくなった部分は、脳からもその存在が失われていきます。また、動きのない部分は血行が促進されないために、組織的にも退化・萎縮して、さらに動きが失われます。すなわち、非神経原性要因への介入は脳のリハビリに重要であると考えます。

 

 

 

 

 

 

 

短縮

 

(1)代償性短縮

 

代償性過活動による短縮であり、片麻痺者の非麻痺側の体幹・胸郭・股関節周囲の高い緊張と短縮です。また、運動失調症患者の上部胸郭に観察される圧縮された屈曲位の短縮です。短縮した非麻痺側の高い緊張の部分に神経の発火が恒常化し、麻痺側体幹や下部体幹の弛緩が相反的に強められてしまいます。

 

 

 

(2)適応性短縮

 

筋肉が短縮位におかれた結果によるものであり、臨床的には車いすに長時間座っていると、前部胸筋群やハムストリングスの短縮が起こる現象です。

 

 

 

ストレッチウィークネスとは、筋肉が正常範囲よりも伸張された肢位におかれた結果生じる弱化です。臨床例では、臥床患者の足部の底屈位が長いと伸びきった足背屈筋に弱化が生じます。また、痙性に起因する大胸筋等の前胸部の短縮が強い高齢の症例では、円背が生じやすく麻痺側背部の肋間筋や背筋群や前鋸筋等が伸びきります。すなわち、異常な相反神経関係による現象として、ストレッチウィークネスは適応性短縮とともに存在しています。

 

ストレッチウィークネスは、ひとつにミオシンとアクチンが離れてしまい収縮しなくなった状態とも解釈できます。

 

短縮は非対称を恒久化し、体幹や四肢から脳への固有感覚の情報導入を偏らせることになります。実際には中枢神経疾患患者では2種類の短縮が同時期に出現しているゆえ、短縮を修復しつつ全身のアライメントと姿勢緊張と相反神経関係を整える必要があります。

 

 

 

・不活動による影響

 

・筋原性萎縮と神経原性萎縮

 

・コラーゲンによる癒着

 

・筋節の欠落

 

・関節包・筋膜・皮膚の短縮

 

・連結橋(結合橋)短縮と揺変性

 

・非荷重と短縮萎縮

 

 

 

・栄養状態や脳卒中後の疲労

 

・脳卒中後の栄養不良と非甲状腺疾患症候群

 

・脳卒中後疲労

 

 

 

ウィークネスへの対応のまとめ

 

慢性期成人片麻痺者へ弱化を起こすもっとも大きい問題として、病的な持続的抑制による遷延弛緩があげられます。この最大の神経原性因子による筋肉の活動の弱さに対して、療法士は患者の意欲を高めつつ、脳からの漸動員の持続性を改善し、抗重力筋群の持続的同時活動を促す必要があります。また、麻痺側上下肢へは運動性のある体重負荷で閉回路を利用し、強い固有感覚を導入します。キーポイント・オブ・コントロールを通じて空間でのオリエンテーションの能力を高めて、機能的な選択的運動を促通することが求められています。

 

筋繊維・腱・関節包・コラーゲンなどの非神経性因子から見る時、筋線維の配列の調整、短縮へのモビライゼーションや筋膜リリース、ストレッチの利用、連結橋短縮への血液循環の改善によるグルコースの再供給、全身のタンパク質代謝の向上などが、運動療法とともに要求されます。

また、介入の中では非麻痺側の上下肢の過緊張により、より機能を発揮しにくくなっている(反対側への抑制)身体状況の改善を図っていくことも必要と考えます。そして、麻痺側の非神経性要因の改善と動作への参加を促し、より効率的な運動パターンの学習を繰り返し行っていくことが大切であります。

 

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