ごあいさつ

脳梗塞・脳出血の方の注意障害について(セラピスト向け)

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<注意障害>
1.注意障害とは

注意機能は記憶や学習、遂行機能などの高次機能の基盤になっているものである。「集中力がない」とか「注意が持続しない」などということがここでいう注意機能の障害のことである。

 注意には空間の一定方向への偏位を持つと考えられている方向性注意と、意識水準を一定に保つ汎性注意とが考えられる。ここで言う注意障害は後者の障害である。注意障害とは、「与えられた刺激に対して適切に反対するために、意識の焦点を合理的かつ柔軟に移動させていく過程の障害である。臨床場面においては課題を継続できなくなったり、注意が散漫となり指示に従えないなどの症状として表れる。」

*脳卒中後遺症として、運動障害などと違い目につきにくい障害として、注意障害(注意・集中力低下・散漫など)がある。「日常生活や病棟生活を自立的に送れるかどうかを決定づける重要な要因は、運動麻痺や言語障害や半側空間無視などの比較的目につきやすくわかりやすい障害よりも感情、意欲、注意、知能、遂行の各機能や人格の領域に存在する障害であることに気づかされる(失語や半側空間無視の存在は、自立の程度に決定的には影響していない)」。リハビリテーションの際にも、治療者が絶えず指示したり、注意を促したり、励ましたりなどの精神面への働きかけを行わないと、患者は適切にあるいは自発的にリハビリテーション治療の活動に取り組む事ができない。

*注意の機能は、意識の明瞭な焦点の明瞭な焦点化の過程と考えられる。人間は、同時に存在する様々な刺激を感覚・知覚し、認知・記憶し、そして思考する際に、①容量機能(意識のある範囲に焦点を当てて、その焦点範囲内の対象を明瞭化する)、②選択機能(特定の対象に意識の焦点を当てたり、また焦点範囲内の対象を他に比べてより明瞭化する)、③持続機能(焦点を当てて明瞭化した状態をある一定期間に保ったりしている)、に大別できる。

 健常者にはこれらの注意の諸機能がバランスを保って作用し、情報を適切に選択し、思考や行動を「制御」している。しかし脳損傷後には、これらの働きが障害されることが多い。基本的には注意機能の障害は、他の認知機能や運動機能などをうまく制御できない現象として現れる。認知機能や運動機能自体の障害ではなく、それらの機能を使いこなす事が不適切な状態として顕在してくる。

 

2.注意障害の分類と評価

注意障害の分類については様々な報告があり、統一した見解はない。臨床症状としてとらえやすくするために、注意を4つの要素に分けて考える。

量的な側面:・覚度…反応に必要な覚醒状態のことをいい、注意の中の最も基盤となる要素である。

      ・持続性…与えられた課題を継続的に遂行する能力である。

質的な側面:・集中性…1つのことに焦点を当てて行為を遂行する能力である。

      ・配分性…複数のことに注意を向けながら遂行する能力である。

 

*注意障害の検査には様々なものがあるが、これらの検査課題には上述した要素の影響が重複している事が多く、1つの要素のみを単独に評価する事は困難である。

*比較的簡便な検査と、それらの検査に対する各要素の特徴的な反応について説明する。

 

①数唱(順唱)

これは検者の言った数字を復唱してもらう課題であり、3桁以下の場合は障害ありと判断する。覚度の障害の検出に有効である。

②カナひろいテスト

用紙に平仮名で書かれた文章を読み、「あいうえお」だけに印を付けていくものである。一定時間内の正当数および正当率を評価する。持続性の障害では時間の経過により反応が遅くなり、集中性の障害では正当数や正当率が低下する。

Trail-making test

用紙に書かれた数字を小さいものから順々に線でつないでいくpartAと数字と仮名を交互につないでいくpartBがある。partAは集中性の障害、partBは配分性の障害を反映しやすい。

paced auditory serial addition task(PASAT)

これは1もしくは2秒間隔でランダムに読み上げられる1から9までの数字を、隣り合う2つの数字ごとにそれぞれ足し算していく課題である。たとえば「3、8、2、5」と読み上げられた場合の答えは「11、10、7」である。配分性の障害の検査に用いられる。

 

*覚度はあいさつ・自己紹介をしながら、またはJCSなどで判断する意識レベル・覚醒レベルである。持続性は5~10分で疲れてしまわないかなど、集中できる時間などは評価時間、訓練時間、ADLなどに影響する。集中性は評価、治療の時、周囲に注意が向いていないか(見たりなど)など観察する。配分性は訓練に集中するあまり、自分の置かれている状況をわからなくなっていないか(点滴などついているのを忘れ引っ掛ける、はずすなど)などに注意する。日常生活への影響も大きく、安全性に関係し、転倒などのリスクも高まる。

*臨床の場面で、計算の書き取りのミス、課題への取り組み時間の短縮、指示をしっかり聞いて行うことができない、危険回避能力の低下などさまざまな症状として表れる。定量的な評価は上記に記載した物の他に、「注意の選択性」の検査として、Audio-Motor Methodがある。これはテープレコーダーを用いて5分間「ト、ド、ポ、コ、ゴ」の5種類の語音に対し目標語音「ト」に反応を求めるものである。Wisconsin Card Sortingはカードに描かれた記号の形と色、数によってカードを分類する課題で、数字の順唱や逆唱と同じくワーキングメモリーの障害を検出するのに有効である。順唱は6桁、逆唱は5桁が正常とされている。

 

3.注意障害の治療

 注意障害の訓練については、Attention Process Training(APT)がある。これは注意障害を持続性、選択性、転換性に分け、それぞれの機能について抹消課題などの課題を繰り返し行うというものである。30日間の訓練で抹消課題の所要時間が、1/2になり、3ヶ月の訓練の結果PASATの成績が向上し、仕事のミスも少なくなったという。そして注意障害の訓練は他の訓練に先んじて施行されるべきとされている。

 

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